◇◆小説の書き方<2>末尾 むすび◆◇

さあと天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった

「「どいて。どいてちょうだい」 駒子の叫びが島村に聞えた。 「この子、気がちがうわ。気がちがうわ」 そう言う声がもの狂わしい駒子に島村は近づこうとして、 葉子を駒子から抱き取ろうとする男たちに押されてよろめいた。 踏みこたえて目を上げたとたん、…

あれでお酒さえ飲まなければ、……神様みたいないい子でした

「「泣きましたか?」 「いいえ、泣くというより、……だめね、人間も、ああなっては、もう駄目ね」 「それから十年、とすると、もう亡くなっているかも知れないね。 これは、あなたへのお礼のつもりで送ってよこしたのでしょう。 多少、誇張して書いているよ…

「居ったカッ」 「居ったッ」

「「つまり湯に這入るふりをして棄てたんじゃナ」 「ヘエ……じゃけんど、ヒョットしたら落いて行ったもんじゃ御座いませんでしょか」 「馬鹿な……吾が児を落す奴があるか」 その時に男湯の入口がガラリと開いて、百姓姿の男が一人駈け込んで来た。 そうして何…

毎度ありがとう存じます。ドウゾ奥様をお大事に……。

「どうかするとツイ探偵小説を地で行ってみたいような気にフラフラッとなりますから妙なもんで……ヘエ。思いもかけませぬお代を頂戴致しまして恐れ入りました。全く根も葉もない作り事を申上げまして、御心配をおかけ申しました段は、幾重にも御勘弁を……。ヘ…

神さまのところに鉛の心臓と死んだ鳥を持ってきました。

「神さまが天使たちの一人に 「町の中で最も貴いものを二つ持ってきなさい」 とおっしゃいました。 その天使は、 神さまのところに 鉛の心臓と死んだ鳥を持ってきました。神さまは 「よく選んできた」 とおっしゃいました。 「天国の庭園でこの小さな鳥は永…

「厄介な奴どもじゃ――」夢野久作 『骸骨の黒穂』末尾 むすび

「「フーム」と署長は考え込んだ。 「彼奴どものする事は一から十までサッパリわからん。切支丹と似たり寄ったりじゃ」 「……………」 「ウム。まあ良え。それ位のところで調書を作ってくれい。自殺の原因は発狂とでもしておけ。警察の中で人を殺したのじゃから…

麗子は咽喉元へ刃先をあてた。一つ突いた。浅かった

「麗子は咽喉元へ 刃先をあてた。 一つ突いた。 浅かった。 頭がひどく熱して来て、 手がめちゃくちゃに動いた。 刃を横に強く引く。 口のなかに温かいものが 迸り、 目先は 吹き上げる血の幻で真赤になった。 彼女は力を得て、 刃先を強く 咽喉の奥へ刺し通…

おれがここへ来る途じゃ、はからず今のを見留めたのは。

「「おれがここへ来る途じゃ、 はからず今のを見留めたのは。 思えば不思議な縁でおじゃるが、 その時には姫御前とはつゆ知らず…… いたわしいことにはなッたぞや、 わずかの間に三人まで」 母はなお眼をみはッたままだ。 唇は物言いたげに動いていたが、 そ…

言はば刃のこぼれてしまつた、細い剣を杖にしながら。」

◆◇芥川龍之介の他の小説の 末尾むすびはココ◆◇「五十一 敗北 彼はペンを執る手も震へ出した。 のみならず涎さへ流れ出した。 彼の頭は〇・八のヴエロナアルを用ひて 覚めた後の外は一度もはつきりしたことはなかつた。 しかもはつきりしてゐるのはやつと半時…

「だから、英雄の器だったのさ。」

◆◇芥川龍之介の他の小説の 末尾むすびはココ◆◇「「弱いじゃないですか。 いや、少くとも男らしくないじゃないですか。 英雄と云うものは、天と戦うものだろうと思うですが。」 「そうさ。」 「天命を知っても尚、戦うものだろうと思うですが。」 「そうさ。…

――さようなら。パアドレ・オルガンティノ!さようなら。南蛮寺のウルガン伴天連!

◆◇芥川龍之介の他の小説の 末尾むすびはココ◆◇「君はその過去の海辺から、静かに我々を見てい給え。 たとい君は同じ屏風の、犬を曳いた甲比丹や、 日傘をさしかけた黒ん坊の子供と、 忘却の眠に沈んでいても、新たに水平へ現れた、 我々の黒船の石火矢の音は…

僕はS博士さえ承知してくれれば、見舞いにいってやりたいのですがね……。

◆◇芥川龍之介の他の小説の 末尾むすびはココ◆◇「けれども僕はこの詩人のように 厭世的ではありません。 河童たちの時々来てくれる限りは、 ――ああ、このことは忘れていました。 あなたは僕の友だちだった裁判官のペップを覚えているでしょう。 あの河童は職…

高志の大蛇を斬つた時より、ずつと天上の神々に近い、悠々たる威厳に充ち満ちてゐた。

「「おれはお前たちを祝ぐぞ!」 素戔嗚は高い切り岸の上から、遙かに二人をさし招いだ。 「おれよりももつと手力を養へ。 おれよりももつと智慧を磨け。おれよりももつと、……」 素戔嗚はちよいとためらつた後、底力のある声に祝ぎ続けた。 「おれよりももつ…

Go, bid the soldiers shoot.

シェイクスピア作品の末尾 むすびの言葉まとめはココPRINCE FORTINBRAS Let four captains Bear Hamlet, like a soldier, to the stage; For he was likely, had he been put on, To have proved most royally: and, for his passage, The soldiers' music a…

五位は慌てて、鼻をおさへると同時に銀の提に向つて大きな嚔をした。

「――彼は、 この上芋粥を飲まずにすむと云ふ安心と共に、 満面の汗が次第に、 鼻の先から、乾いてゆくのを感じた。 晴れてはゐても、敦賀の朝は、 身にしみるやうに、風が寒い。 五位は慌てて、鼻をおさへると同時に 銀の提に向つて大きな嚔をした。」芥川龍…

うぬ惚れるな。同時に卑屈にもなるな。これからお前はやり直すのだ。」

◆◇芥川龍之介の他の小説の 末尾 むすびはココ◆◇「僕 誰が来いと云ふものか! 僕は群小作家の一人だ。又群小作家の一人になりたいと思つてゐるものだ。平和はその外に得られるものではない。しかしペンを持つてゐる時にはお前の俘になるかも知れない。或声 で…

For never was a story of more woe Than this of Juliet and her Romeo.

シェイクスピア作品の末尾むすびの言葉まとめはココMONTAGUE But I can give thee more: For I will raise her statue in pure gold; That while Verona by that name is known, There shall no figure at such rate be set As that of true and faithful Ju…

Shall never see so much, nor live so long. Exeunt, with a dead march

シェイクスピア作品の末尾むすびの言葉まとめはココKENT I have a journey, sir, shortly to go; My master calls me, I must not say no.ALBANY The weight of this sad time we must obey; Speak what we feel, not what we ought to say. The oldest hath…

To part the glories of this happy day.

シェイクスピア作品の末尾むすびの言葉まとめはココOCTAVIUS According to his virtue let us use him, With all respect and rites of burial. Within my tent his bones to-night shall lie, Most like a soldier, order'd honourably. So call the field …

That like events may ne'er it ruinate.

シェイクスピア作品の末尾むすびの言葉まとめはココAARON O, why should wrath be mute, and fury dumb? I am no baby, I, that with base prayers I should repent the evils I have done: Ten thousand worse than ever yet I did Would I perform, if I m…

This heavy act with heavy heart relate.

シェイクスピア作品の末尾むすびの言葉まとめはココCASSIO This did I fear, but thought he had no weapon; For he was great of heart.LODOVICO [To IAGO] O Spartan dog, More fell than anguish, hunger, or the sea! Look on the tragic loading of thi…

長い鼻をあけ方の秋風にぶらつかせながら。

◆◇芥川龍之介の他の小説の 末尾むすびはココ◆◇「内供は慌てて鼻へ手をやった。 手にさわるものは、昨夜の短い鼻ではない。 上唇の上から顋の下まで、五六寸あまりもぶら下っている、 昔の長い鼻である。 内供は鼻が一夜の中に、また元の通り長くなったのを知…

兎に角御生れつきから、並々の人間とは御違ひになつてゐたやうでございます。

◆◇芥川龍之介の他の小説の 末尾むすびはココ◆◇「一堀川の大殿様のやうな方は、これまでは固より、 後の世には恐らく二人とはいらつしやいますまい。 噂に聞きますと、あの方の御誕生になる前には、 大威徳明王の御姿が御母君の夢枕にお立ちになつた とか申す…

Whom we invite to see us crown'd at Scone.

シェイクスピア作品の末尾むすびの言葉まとめはココALL Hail, King of Scotland! FlourishMALCOLM We shall not spend a large expense of time Before we reckon with your several loves, And make us even with you. My thanes and kinsmen, Henceforth b…

極楽ももう午に近くなったのでございましょう。

◆◇芥川龍之介の他の小説の 末尾むすびはココ◆◇「しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。 その玉のような白い花は、御釈迦様の御足のまわりに、 ゆらゆら萼を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、 何とも云えない好い匂が、絶間…

「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」

「私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」そして私は活動写真の看板画が奇体な趣きで街を彩っている京極を下って行った。」梶井基次郎『檸檬』末尾

もうすぐに父の四十九日の忌日が来る。

「もうすぐに父の四十九日の忌日が来る。 彼は、またあの厭な親族たちに会うことを思うと辟易したが、 こんどはきゅうに一家の主人公になったのだから、 ひとつおおいに威厳を示してやろうなどと思い、 その日に言うべき言葉の腹案と態度のことを今から夢想…

その音は誇らしげに、かつ確実な効果をおさめつつ続いた。

「花火が音高らかに、打ち揚げられた。その音は誇らしげに、かつ確実な効果をおさめつつ続いた。」武田泰淳『流人島にて』末尾 〜テクスト礼讃〜 http://fiderio.blog68.fc2.com/blog-category-143.htmlテクスト礼讃 通信簿 購読 ↑そのままメール送れば、メ…

私はしごく落ちつきなく、漠然とそのようにつぶやいて、

「私はしごく落ちつきなく、漠然とそのようにつぶやいて、仏像の前の黒色の壇を降りた。堂内を一周して入口へ出ると、冷く湿った風が私の襟もとに吹きつけた。」武田泰淳『異形の者』末尾 〜テクスト礼讃〜 http://fiderio.blog68.fc2.com/blog-category-143…

磯辺にきてみれば、松の根元に腹かき切りて死せる一個の僧

「次の日の朝、和歌の浦の漁夫、磯辺にきてみれば、松の根元に腹かき切りて死せる一個の僧あり。さすが汚すに忍びでや、墨染の衣はかたわらの松枝にうち懸けて、身に纏えるは練布の白衣、脚下に綿津見の淵を置きて、刃持つ手に毛ほどの筋の乱れも見せず、血…