あれでお酒さえ飲まなければ、……神様みたいないい子でした

「「泣きましたか?」



「いいえ、泣くというより、……だめね、人間も、ああなっては、もう駄目ね」



「それから十年、とすると、もう亡くなっているかも知れないね。


これは、あなたへのお礼のつもりで送ってよこしたのでしょう。


多少、誇張して書いているようなところもあるけど、


しかし、あなたも、相当ひどい被害をこうむったようですね。


もし、これが全部事実だったら、そうして僕がこのひとの友人だったら、


やっぱり脳病院に連れて行きたくなったかも知れない」



「あのひとのお父さんが悪いのですよ」



 何気なさそうに、そう言った。



「私たちの知っている葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、


あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、


……神様みたいないい子でした」

太宰治人間失格』末尾 むすび