日本文学

思いは、満で六十七の今も消えていない

「つまらないことかもしれないが、 女のからだのほとんどどこからでも 男のくちびるは血をださせることが出来ると はじめて教えたのは、 乳首のまわりを血にぬらせたその娘であって、 その娘のあとにはかえって 江口は女の血をにじませるまでは避けたけれど…

蜻蛉の群れが流れていた。綿毛が飛んでいるようだった

「生きているのかしらと 島村が立ち上がって行って、 金網の内側から指で弾いても、 蛾は動かなかった。 拳でどんと叩くと、 木の葉のようにぱらりと落ちて、 落ちる途中から 軽やかに舞い上がった。 よく見ると、 その向こうの杉林の前には、 数知れぬ蜻蛉…

八畳の畳はたいへん広いもののように眺められた

「彼は昆虫どもの悶死するありさまを、 つぶさに観察していた。 秋が冷えるにつれて、彼の部屋の畳の上で死んでゆく虫も日ごとにあったのだ。 翼の堅い虫はひっくりかえると、もう起き直れなかった。 蜂は少し歩いて転び、また歩いて倒れた。 季節の移るよう…

「ぎゃあっ、ぎゃあっ、ぎゃあっ」と鳴声が庭でした

「「ぎゃあっ、ぎゃあっ、ぎゃあっ」 と聞こえる鳴声が庭でした。 左手の桜の幹の蝉である。 蝉がこんな不気味な声を出すかと疑ったが、 蝉なのだ。 蝉も悪夢に怯えることがあるのだろうか。 蝉が飛びこんで来て、 蚊帳の裾にとまった。 信吾はその蝉をつか…

二人共牢屋へ入れられました。

「泥棒がケチンボの家へ入ってピストルを見せて、お金を出せと言いました。ケチンボは、 「ただお金を出すのはいやだ。その短銃を売ってくれるなら千円で買おう。お前は私からお金さえ貰えばそんなピストルは要らないだろう」 泥棒は考えておりましたが、と…

もう取り返しがつかないことをしなければならない

「もう取り返しがつかないことをしなければならない、 と思いつめたら、 その時、 『ある時間、待ってみる力』を ふるい起こすように!」大江健三郎 『「自分の木」の下で』より ブログ内検索Amazon最安値でセンスの光る古本屋【ふぃでりお書店】を出店中で…

乗り越えるべき旧い小説さえ私は持っていなかった

「新しい小説を 目指したためではなく、 乗り越えるべき 旧い小説さえ、 私はほとんど 持っていなかった のである。」安部公房 『終りし道の標べに』改版あとがき とはいうものの、である。言葉というものの恩恵にあずからんとする小説家である以上は、誰か…

手紙を待つような調子で戦争を語る

「戦争が、 そんなふうに、 まるで 誰かの手紙でも待っているような調子で 語られるということ自体が、 なんとも痛々しく、 やり切れない雰囲気を かもしだす。」 安部公房 『他人の顔』 ブログ内検索Amazon最安値でセンスの光る古本屋【ふぃでりお書店】を…

「本人は過去を忘れても、過去は本人を覚えている」

「「本人は過去を忘れても、 過去は本人を覚えている」 トラウマには、 自分の身に起きたことを 無意識に繰り返してしまう 「再演化」という性質があるそうだ。 わたしは、自分の内に同在する 被害と加害を書くことによって変容させて、 小説や戯曲のかたち…

あかをぬかっしゃれ、うろたへて むすめひとりすて

「そのぶんではうろんな。 こちの人、 むすめがあかをぬかっしゃれ、 うろたへてむすめひとりすてさっしゃるな、 これこれ」近松門左衛門 『心中万年草』 Amazon最安値でセンスの光る古本屋【ふぃでりお書店】を出店中です。岩波ベストテン:岩波書店のラン…

傷口を縫合するものは時日 漱石『門』より

「凡ての傷口を縫合するものは 時日である。」夏目漱石 『門』

行け。勇んで。小さき者よ。( ガンバレ日本!)

今日行われるワールドカップ日本対オランダ戦。 先日、オランダ監督から忘れられるという屈辱を受けた岡田監督だが、インタビューで相手の名前を間違えた。 敢えてか、本気でか。 先制攻撃。(いや、むしろやり返しただけか。) 大人気ないとは思いながらも、…

何といふ 奇妙な小説 であらう。

「しかし、 何といふ 奇妙な小説 であらう。」中島敦 「狼疾記」 『中島敦全集2』ちくま文庫 Amazon最安値でセンスの光る古本屋【ふぃでりお書店】を出店中です。【 概念・時間・言説―ヘーゲル“知の体系”改訂の試み (叢書・ウニベルシタス) (単行本)アレク…

『蹴りたい背中』より、コーンフレーク売り場の描写

「大きなコーンフレーク売り場には、 それぞれ違う種類の コーンフレークが詰めてあるタンクが、 ずらりと並んでいた。 タンクは 黒いバルブを引くと、 まるで蛇口から流れる 水道水のように、 コーンフレークが茶色い紙袋の上へ 落ちてくる仕組みになってい…

猫の名前は『365日のおかず百科』だ。

「わたしはここにこうして静かに座って本を読んでいる。 ここはわたしの部屋で、 およそ二万冊の本と 茶色いオス猫が一匹いる。 猫の名前は 『365日のおかず百科』だ。 猫の名前が『365日のおかず百科』 であることについて、 わたしはとやかく言われたくな…

野球のことがどのくらい書いてあるか。

「本というものには 沢山の種類が あることを わたしは知っている。 SFとか、 辞典とか、 教科書とか。 わたしに必要なのは そんな分類ではない。 野球のことが どのくらい書いてあるか。 わたしが知りたいのは それだけだ。」高橋源一郎 『優雅で感傷的な日…

私たちは このたび、めでたく、離婚いたしました

「私たちは 再々にわたる 協議の末、 このたび、 めでたく、 離婚 いたしました。」色川武大 『離婚』 冒頭書き出しAmazon最安値でセンスの光る古本屋【ふぃでりお書店】を出店中です。【 概念・時間・言説―ヘーゲル“知の体系”改訂の試み (叢書・ウニベルシ…

どっどどどどうどどどうどどどう

「どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいくわりんもふきとばせ どっどど どどうど どどうど どどう」宮沢賢治 『風の又三郎』齋藤孝『声に出して読みたい日本語』草思社 p.18 「一、腹から声を出す」にも収録Amazon最安値で出…

幻の方が色あせて消えていくということにはならない

「夜半、ふと眼をあけると、 視界全体が、いつのまにか 生家の八畳間になっている。 それは幻というやつであって、 今、 自分が、 どこに寝ていてどういう状態か、 むろんよく承知をしている。 けれども、 頭がはっきりしているから、 幻の方が色あせて消え…

世にしたがへば、

「世に したがへば、 身、 くるし。 したがはねば、 狂せるに 似たり」鴨長明 「方丈記」 そんな時代だな〜今もAmazon最安値で出品中です。Amazon 古本 最安値 【若き日の夢―グラツィエツラ (1957年) (角川文庫) [古書] (-)ラマルチーヌ (著), 桜井 成夫 (翻…

恋愛とは何か。曰く、「それは…

「だから 私は、 はじめから 言つてある。 恋愛とは何か。 曰く、 「それは 非常に 恥かしいもの である」と。」太宰治 〜テクスト礼讃〜 http://fiderio.blog68.fc2.com/blog-category-143.html

夢は、精神の姿勢の原型

「夢は 私達の 精神の 姿勢 の原型を 示しているのである。」埴谷雄高

──サク、サク、……サク、サク……サク、サク……。

「軍靴の音が聞こえていた。 ──サク、サク、 ……サク、サク……サク、サク……。 雪を踏む音である。 ──もう三時を回ったのか ……雪は止んだらしいが……。 北一輝は 半睡半覚の中にいた。 ……彼の 好きな時間である。」豊田穣 『革命家 北一輝』講談社文庫 冒頭 p.9-…

……天才的ピアニスト…… ……童貞……

「「俺はここで死ぬのかな……」(略)「俺はここで死ぬのかな」 (略)……天才的ピアニスト…… ……童貞…………肺病…………乞食…………死……」夢野久作「童貞」 『少女地獄』角川文庫 昭和51 p.190---------------------------------- 【Amazonマケプレ出品中】 ♪いま聴いて…

遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん

「遊びをせんとや生れけむ、 戯れせんとや生れけん、 遊ぶ子供の声きけば、 我が身さえこそ動がるれ。舞え舞え蝸牛、 舞はぬものならば、 馬の子や牛の子に蹴させてん、 踏破せてん、 真に美しく舞うたらば、 華の園まで遊ばせん。 」『梁塵秘抄』 編者:後白…

熊野へ参らむと 思へども

「熊野へ参らむと 思へども徒歩より参れば 道遠しすぐれて山駿し馬にて参れば 苦行ならず」『梁塵秘抄』 編者:後白河法皇---------------------------------- ♪いま聴いている曲はコレ♪【おすすめCD】 間テクスト性について知りたい方はコチラ マンガも偏っ…

ふらんすへ 行きたし

「ふらんすへ 行きたしと 思へどもふらんすは あまりに遠し」萩原朔太郎「旅上」---------------------------------- ♪いま聴いている曲はコレ♪【おすすめCD】 間テクスト性について知りたい方はコチラ マンガも偏って読んでます。 『ジョジョの奇妙な冒険』…

平民の境遇から発生した意味ふかい言葉

「その他 長いものには巻かれろ、 という諺は 徳川時代の平民の境遇から 発生した意味ふかい言葉である。 一寸の虫にも五分の魂、 という言葉も、 等しくこれらの 描写をもたぬ市民の心 から産まれている。」宮本百合子 『パァル・バックの作風』またもや「…

生きたくない…いきなきゃ成りません。

「生きたくない と思ったって、 生きるだけは いきなきゃ 成りません。」島崎藤村「家」

僕ハモーダメニナツテシマツタ

「僕ハ モーダメニナツテシマツタ、 毎日訳モナク 号泣シテ居ル ヤウナ 次第ダ」正岡子規 夏目漱石宛て手紙 明治三十四年十一月六日付け