思いは、満で六十七の今も消えていない


「つまらないことかもしれないが、


女のからだのほとんどどこからでも


男のくちびるは血をださせることが出来ると


はじめて教えたのは、


乳首のまわりを血にぬらせたその娘であって、


その娘のあとにはかえって


江口は女の血をにじませるまでは避けたけれども、


その娘から男の一生を強めるおくりものをされた思いは、


満で六十七の今も消えていない。」

川端康成
眠れる美女