古井由吉氏は、文章全体が不安や不安定になっている

古井由吉氏の一連の作品は、


「日常のリズム」についていけなくなった人間の


「ずれ」を克明にすくいとっています。


私たちが「なんとなく」感じている


「ずれ」や「違和感」を文章にしています。


(略)


古井氏は


「精神の遠近法が狂っている」


という状況を書くのがうまい作家です。


エッシャーのだまし絵のように、


文章全体が「不安」や「不安定」


そのものになっている。」

福田和也
福田和也の「文章教室」』講談社 2006 p.78-79