わたしはボルヘスである

「しかし、しかし ── 時間の連続を否定し、自我を否定し、天文学の宇宙を否定することは、あからさまな絶望とひそやかな慰めである。スウェーデンボリの地獄やチベット神話の地獄と違って、われわれの運命はその非現実性ゆえに恐ろしいのではない。不可逆不変であるがゆえに恐ろしいのだ。時間はわたしを作りなしてい材料である。時間はわたしを運び去る川であるが、川はわたしだ。時間はわたしを殺す虎であるが、虎はわたしだ。時間はわたしを滅ぼす火であるが、火はわたしだ。不幸なことに世界は現実であり、不幸なことにわたしはボルヘスである。」
ホルヘ・ルイス・ボルヘス「新時間否認論」