ドイツの民間伝説というのは、血と霧とからできていて、陰気くさく、

「君たちフランス人の民間伝説はわれわれドイツ人のそれとくらべると、なんとうつくしく、明るく、色どりにとんだものだろうか? ドイツの民間伝説というのは、血と霧とからできていて、陰気くさく、ものすごく、歯をむきだしてわれわれをにらみつけるかたわものである。ドイツの中世の詩人たちは、君たちフランス人がブルターニュやノルマンディで考えだしたか、あるいははじめてとりあつかった材料を大ていえらびだして、その自分の作品におそらくはわざと、あのあかるい古代フランス式の風味をなるべく多くあたえようとした。けれども、わがドイツの国民文学や口づたえの民間伝説には、君たちフランス人の思いもつかないような種類の水火地風の妖精をもっている。」
ハイネ『ドイツ古典哲学の本質』第一巻 宗教改革とマルチン・ルター