橋川文三

「つまり、私はあの凄まじい超国家主義時代の経験をたんなる錯誤としてではなく、また特殊日本的な迷妄としてではなく、まさしくある一般的な人間の事実としてとらえなおすことによって、かえって明朗にこれに対決する思想形成が可能であるという風に考えた。この考え方は、私がかつて日本浪曼派の問題を取り扱った場合と同じである。一般にそれらを理解を絶した異常現象として切捨てるやり方が、戦前のあの思想的な転換期において、いかに無力であったかということは、私の戦争体験に刻みこまれた根本的認識の一つである。」
橋川文三『近代日本政治思想の諸相』あとがき 1968