斎藤慶典

「超越論的とは何を意味しているか。フッサールのこの用語の直接の先駆者は言うまでもなくカントである。カントにとって超越論的とは、まず何よりもその批判哲学の基本的態度を表すものであった。すなわち、さまざまな対象についての認識が諸学がこととする認識であるのに対して、批判哲学が取り組む認識は対象についての認識ではなく、私たちが対象を認識する仕方についての一切の認識である。そしてこの認識が超越論的と呼ばれるのは、それが今述べたようなものであるかぎり、対象へとまっすぐに関わる認識を何ほどか超えでており、にもかかわらず決して経験を超えた対象(たとえば神)に関わるものではないがゆえに、超越的認識(たとえば神に対する認識)と明確に区別されねばならないからである」
斎藤慶典『思考の臨界』p.5