作品にならない言葉を、酒の酔いや幻覚など一切かりずに綴りつづける

「批評のいちばんの悩み、口にするのが恥かしいためひそかに握りしめている悩みは、作品になることを永久に禁じられていることだ。(略)作品には骨格や脊髄とおなじように肉体や雰囲気がいるのに、作品を論じながらじぶんを作品にしてしまうのは、それ自体が背理としてしか実現されない。批評が批評として終りをまっとうすることは作品にならない言葉を、酒の酔いや幻覚など一切かりずに綴りつづけることを意味する。近代批評は、やっとひとりの批評家をのぞいて終りをまっとうしていない。」

吉本隆明『悲劇の解読』序より
ちくま文庫、1985