日本と云うものは、つねに「世界文化のための」というまえおきを書くことを強いられている

「東洋的とか、一般に東洋といふ事が何ら我々の間でも世界歴史の観点からは鮮明にされていない。それは日本といつてもいい、その日本が現代には大方鮮明にされていないのである。東洋の遠征とか、東洋の求道とか、東洋の生理とか、東洋の交通路とか、一般に東洋のもつていた世界文化と芸術と哲学について、我々はその場所も地位も知らない。今日僕らの知る東洋は十九世紀以後のものなるヨーロッパ精神の説いたものにすぎないのである。(略)今日東洋と云い日本と云うものは、つねに「世界文化のための」というまえおきを書くことを強いられている。」

保田與重郎
「方法と決意」
保田與重郎全集第四巻』講談社 p.51-52