恋すという語には、もとめるはげしさ、狂的な祈願がこめられている

「日本では、人を愛し、人を恋しもするが、通例物を恋すとはいわない。まれに、そういう時は、愛すと違った意味、もう少し強烈な、狂的な力がこめられているような感じである。もっとも、恋す、という語には、いまだ所有せざるものに思いこがれるようなニュアンスもあり、愛すというと、もっと落ちついて、静かで、澄んでいて、すでに所有したものを、いつくしむというような感じもある。だから恋すという語には、もとめるはげしさ、狂的な祈願がこめられているような趣きでもある。」

坂口安吾
恋愛論
p.161『堕落論』昭和32 角川文庫