三島と大衆との裂け目、つまり歴史と大衆との裂け目

三島由紀夫の自決にたいして、小林がきわめて倫理的であったのは、小林が歴史を倫理化するのに大衆をいかに抽象したかという、その抽象の分量を示していると思われる。三島と大衆との裂け目、つまり歴史と大衆との裂け目、これが小林秀雄吉本隆明江藤淳との裂け目である。この裂け目についての決定的な解答は、いまだ十分には出されていない。そしてひそかに思う、大衆は愛するに値するのであろうか?もしそうなら、倫理とは、美とは何であろうか?おそらくこの問いのかなたには、はてしない闇のような世界がある。」

磯田光一
「歴史意識の倫理化」