所詮人生の第一義は胃の腑こ問題なり

「自殺を迫るの宗教、教育果して何人の能く耳を傾くべき乎、人の妾となるも喰はんが為め也、議員の節を賣るも喰はんが為め也、壮士の投票を買ふも喰はんが為め也、之を禁ぜんと欲せば之に喰ふの途を與へざる可らず、人生果して喰はずして徳義人道あることを得る乎、胃の腑なくして社会、経済、文学、宗教、治国平天下あることを得る乎、所詮人生の第一義は胃の腑こ問題なり、此の問題にして先づ解決せられざる以上は、萬事萬物猶ほ混沌の裡に在るなり、孔子曰く、民をして富ましめて後、之を教へよと是れ此謂也。」

幸徳秋水「胃腑の問題」
明治32年9月18.20日、秋水、『長廣舌』所収『幸徳秋水全集 第二巻』p.200