書かれたものと書かれなくてもいいもの

「本を読むのが段々面倒くさくなつたから、なるべく読まないやうにする。読書と云ふことを、大変立派な事のやうに考へてゐたけれど、一字ずつ字を拾つて、行を追つて、頁をめくつて行くのは、他人のおしやべりを、自分の目で開いてゐる様なもので、うるさい。目はそんなものを見るための物ではなささうな気がする。」

内田百けん
「風呂敷包」
百鬼園随筆旺文社文庫 1980

「たぶん現在は、書かれなくてもいいのに書かれ、書かれなくてもいいことが書かれ、書けば疲労するだけで、無益なのに書かれている。」

吉本隆明
「2 筆記 凝視 病態」
『言葉からの触手』河出文庫