「ことしは正宗白鳥も死んだ。
だれだれ「は死んだ」ではなく、
だれだれ「も死んだ」のだ。
死ぬということは、
そんな当たり前のことなのだ。
正宗白鳥はマリリン・モンローとはちがって、
老いて、病んで、骨と皮ばかりのようになって死んだ。
シャバのできごとの悪口を言って
美しいことを暗示しようとしたらしい。
マリリン・モンローは美しいものを自分の身体から現わすことを発見したのだが、
正宗白鳥は美しい事を捜していたらしい。
美しい「物」ではなく美しい「事」だったらしい。
二人ともその一生は聖者の行進のように私は思えるのだ。」
深沢七郎「いのちのともしび」p.89
『人間滅亡の唄』新潮文庫 昭和50年