吉田健一『読者の立場から見た今日の日本文学』

「例えば「煤煙」のようなものは


その文章から言っても、


文学作品であることを疑わせるのであって、


それが一時的にも愛読されるか、


或は多勢の人間に読まれたことは、


ひとつの社会をなしている読者の要求が、


それがどんなに奇怪なものであっても、


如何に大きく一つの作品の成立に作用するものかを


我々に教えてくれる。」

吉田健一
『読者の立場から見た今日の日本文学』日本文化研究4 新潮社 p.16