書き遺されたものは疑ひ出せば、すべてが怪しくなる

「過去の事実といふのは、


わかつてゐるやうなことでも


実際にはなかなかわかりにくい。


事実には


いろいろの側面があるし、


書き遺されたものは


疑ひ出せば、


すべてが怪しくなる


からである。


とくに過去の出来事を


現代の私たちの常識によつて


判断しようとしても、


この常識が必ずしも


通用しない。」

安岡章太郎『流離』新潮社 昭和五十六年 p.135