これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。
「序
これはある精神病院の患者、
――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。
彼はもう三十を越しているであろう。
が、一見したところはいかにも若々しい狂人である。
彼の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでもよい。
彼はただじっと両膝をかかえ、時々窓の外へ目をやりながら、
(鉄格子をはめた窓の外には枯れ葉さえ見えない樫の木が一本、
雪曇りの空に枝を張っていた。)
院長のS博士や僕を相手に長々とこの話をしゃべりつづけた。
もっとも身ぶりはしなかったわけではない。
彼はたとえば「驚いた」と言う時には急に顔をのけぞらせたりした。……」
芥川龍之介
『河童』冒頭書き出し
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