ぼくは花を真上から踏みつけすりつぶした
「部屋の中は
窓も入口の扉も
しめきられているのに
奇妙に寒くて、
このままにしていると
ぼくの体のなかまで
凍えてしまう気がした。
ぼくはうつぶせになって
机の上に置いてある
物理のノートに書いた地図に
×印をつけた。
いま×印をつけた家には
庭に貧血ぎみの
赤いサルビアの花が植えられており、
一度集金にいったとき、
その家の女が出てくるのがおそかったので、
ぼくは花を
真上から踏みつけすりつぶした。」
中上健次
「十九歳の地図」p.81 冒頭 『十九歳の地図』河出書房新社 1981
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