「吉備」という語感

「「吉備」という語感がたまらなく好きである。上古岡山県吉備国といった。のち備前、備中、備後(備後のみは明治後広島県編入)それに美作をくわえて四カ国にわかれたが、吉備といわれていたむかしは、出雲が大和朝廷に対する隠然たる一敵国であったように、吉備国もまた一個の王朝のすがたをとっていたにちがいなかった。鉄器が豊富であった。
 中国山脈で砂鉄を産したがために、武器、農具が多くつくられ、兵はつよく、土地ははやくからひらかれ、出雲とならんでいわゆる出雲民族の二大根拠地であり、その富強をもって大和に対抗していた。この点、岡山県は他県とはちがい、しにせが古すぎるほど古い。」
司馬遼太郎「桃太郎の末裔たちの国」『歴史を紀行する』