詞のみにもあらず、よろづのしわざにも、かたゐなかには、いにしへざまの、みやびたることの、のこれるたぐひ多し

「詞のみにもあらず、よろづのしわざにも、かたゐなかには、いにしへざまの、みやびたることの、のこれるたぐひ多し、さるを例のなまさかしき心ある者の、立まじりては、かへりてをこがましくおぼえて、あらたむるから、いづこにも、やうやうにふるき事のうせゆくは、いとくちをしきわざ也、葬礼婚礼など、ことに田舎には、ふるくおもしろきことえほし、すべてかかるたぐひの事共をも、国々のやうを、海づら山がぐれの里々まで、あまねく尋ね、聞あつめて、物にもしるしおかまほしきわざ也、葬祭などのわざ、後世の物しりの人の、考え定めたるは、中々にからごころのさかしらのみ、多くまじりて、ふさわしからず、うるさしかし」
本居宣長『玉勝間』八の巻、萩の下巻