我々は単に隠れたる意思の、積み重なりを感ずるばかり

「庭に来年の花の木を栽ゑようとして、土を掘かへして見ると色々の土器の破片が出てくる。この中には数千年も前に、貝を主食として居た人の造つたものも有るといふが、ただの茶碗や擂鉢見たやうなかけらでも、どうしてこんな所に落ち散つて居たのか、理由のわかつて居るものなどは一つも無い。我々は単に隠れたる意思の、積み重なりを感ずるばかりである。」

柳田國男
「旅と故郷」書き出し
『定本柳田國男集』筑摩書房 p.45