「不自然な暴力って何ですか」「何だかそれは私にも解らないが、


「先生の口元には微笑の影が見えた。「よくころりと死ぬ人があるじゃありませんか。自然に。それからあっと思う間に死ぬ人もあるでしょう。不自然な暴力で」「不自然な暴力って何ですか」「何だかそれは私にも解らないが、自殺する人はみんな不自然な暴力を使うんでしょう」「すると殺されるのも、やはり不自然な暴力のお蔭ですね」「殺される方はちっとも考えていなかった。なるほどそういえばそうだだ」」

夏目漱石
『こころ』
ちくま文庫 p.67