しばらく眺めていたが、腹の割れ目から手を入れて、

ある夜、眠れなかった光晴は、したのベッドに寝る中国人の女性の寝顔を
「しばらく眺めていたが、腹の割れ目から手を入れて、彼女のからだをさわった。じっとりとからだが汗ばんでいた。腹のほうから、背のほうをさぐってゆくと、小高くふくれあがった肛門らしいものをさぐりあてた。その手を引きぬいて、指を鼻にかざすと、日本人と少しも変わらない、強い糞臭がした。同糞同臭だとおもうと、『お手々つなげば、世界は一つ』というフランスの詩王ポール・フォールの小唄の一節がおもいだされて、可笑しかった」

金子光晴
「ねむれ巴里」