昔は学問のことを勉強といっていた。

「昔は学問のことを勉強といっていた。何か一つの目的のために、強いて勉めて我慢をして学問をしたのであった。多くは新たなる職業のためであった。家々の燈火が明るくなってから、そんな必要のない人も、楽に世の中のためにまたは愛する者のために、静かな時間を読書に費やすことができるのである。人が自分に入用なだけの学問を、勉強して修めている間は、まだ人間社会の全体を、これによって、改良する見込みは立たぬ。少しでも余裕のある者が、他を助ける心持ちで、本を読みまた考えるようにならなければ、次の代は今よりも幸福にはならぬのである。」

柳田國男
「家の光」