ことがらのうちにはは何ひとつ存在しない

「われわれは、<原因>とか<結果>とかいうものを、ただ純然たる概念としてのみ、いいかえれば記述や了解のための便宜的なフィクションとしてのみもちいるべきであって、説明の具にしてはならない。ことがら<自体>のうちには、<因果の連鎖>とか<必然性>とか<心理的不自由>とかいったものは何ひとつ存在しない。そこでは<結果は原因に従う>ということもなければ、何ら<法則>が支配しているわけでもない。原因、継起、相互性、相関性、強制、数、法則、自由、根拠、目的といったものをでっちあげたのは、他ならぬわれわれなのだ。そしてわれわれが、こうした記号世界を<自体>となして事物の中へ考え入れ、混ぜ入れているとすれば、またもやわれわれはこここでいつもながらのやりくちを、つまり神話的なやりくちをとっているのだ」

フリードリヒ・ニーチェ(信太正三訳)
善悪の彼岸