切れば血のほとばしりでるようなさまざまな体験

「何らかの原体験というものが作者のうちに存在しなければ、そもそも作品というものは成立しませんから、氏の作品のなかにも、生ま生ましい、切れば血のほとばしりでるようなさまざまな体験が煮つめられていることは事実です。しかし、それらはすべて生まの直接体験の次元をはるかにこえた次元で、いわば方法的に処理されているので、ある個人の特殊な体験というよりも、なにか時代的に普遍的な体験といった性格を帯びてあらわれています。」

佐々木基一
「作家と作品 石川淳
日本文学全集69、集英社、昭和44