作家の文章は他人の内部に他人の主体となって入りこむ

「作家の文章は、他人の内部に、他人の主体となって入りこむことが必要だという点で、おそらくそれ以外の人の文章と区別されるだろう。だから作家の文章は、進歩するのに手間がかかる。言葉に対する科学的な研究をされている方々も、どうか作家の進歩のおそさに対して、寛大であってほしいと思う。考えて書くと同じだけ、書くことによって考えなければならないのが作家なのである。」

安部公房
『砂漠の思想』