この人物は兵をあげ皇帝を私称、そのために逮捕

「…ロッシュはそのことに熱中するのにふさわしい心理的立場をもっている。かれはナポレオン三世の寵臣であった。このシャルル・ルイ・ナポレオン・ボナパルトという奈翁家の三世の立場は、どこか、慶喜に似ている。かれは高名な第一世の甥であったが、兄が若死し、かつ第一世の子ライヒシュタット公が死んだために、奈翁家の正統の相続者たる資格をえた。すでにフランスではナポレオン時代は過去の歴史になっているのに、この人物は兵をあげて皇帝を私称した。そのために逮捕され、アメリカに追放されたが、一八四八年二月の革命に乗じて
代議士になり、ついで権謀のかぎりをつくして大統領になり、さらに日本の嘉永五年、国民投票によって皇帝になった。かれは日本については外国的必要以上の関心をもち、かつ徳川将軍の立場に同情していた。」
司馬遼太郎『最後の将軍』文春文庫 1997 p.192-193