死にゆく人の脳裏には、もはや神も家族もなく

「…アリエスは、


二○世紀においては、


死が象徴的な意味で


「虚無に埋没した」


と捉えました。


死にゆく人の脳裏には、


もはや神も家族もなく、


自分もまた消え去るものとしての


現代的な虚無の世界しかないのではないか


と言っています。


「その無の根底を支え得るのは、


わずかに人間同士の心の交流としての


愛と優しさではないか」


というのが彼の結論です。


ここにおいて、


死は再び、


生命の


本源的なるものへの


回帰に導かれているようです。」

アルフォンス・デーケン
『死とどう向き合うか』NHKライブラリ日本放送出版協会 p.16 1996