創作は他テクストを反復、ピッタリ重なろうとする試み

「他の作品とは関係なく、


紙との一対一の関係において


自己を表出するという試みは、


すぐれて「近代」的な意味においては、


決して「創作」するということではなかった。


「創作」するとは、


先行する他のテクストを参照し「反復」すること、


それとピッタリ重なろうとする試みが、


その原理的な理由からして、


はからずも一致しえず、


ズレを来してしまうこと、


またこのズレゆえに、


オリジナルにはなかった別の価値を


派生してしまうに到ることである。


「近代」にあっては、


他のテクストを参照すること、


つまり「読む」ことなくしては、


どんな作品も作りえなかったのである。


だとすれば、


小林のやったあの不可解な「反復」は、


彼の周囲のどんな作家がやったよりも、


すぐれて「近代」的な意味での


「創作」の赤裸々な実践であった


ということにはならないだろうか。」

山城むつみ
「小林批評のクリティカル・ポイント」p.34-35
『文学のプログラム』2009