以前はソナタとかコナタとかいつて呼んで居た。

「今でも家々の母は父に對して、


たゞアナタといふのが普通であるが、


以前は父の方から母に對しても、


ソナタとかコナタとかいつて呼んで居た。


たゞ呼びずてにはしなかつたやうである。


オマヘといふのも元来は妻に對する敬語であつた。


それよりももつと廣く行はれたのはオカタといふ語であつて、


これも主婦に向つてのうやまひの呼び方であつた。


小さな子どもは父のこの語をまねて、


やはり母をオカタと言つて居たらしい。


それが子供だから正しくはまねられないで、


オカともオカゝともなつてしまつたのである。


大人やよその人までがそんな語を用ゐるやうにやつて、


何かあまりお粗末なやうにきこえ、


後々は更にその下にサマを添へて、


オカアサマとかカゝサマとか言はせるやうになつたが、


この變化は至つて新しいことであつたばかりか、


オカタといふ言葉までが中世以前にはないことであつた。


ハゝといふ言葉は古い書物にもあり、


今でも上品な語として知られて居るが、


これとカゝとは別々のものだつたと、私などは信じて居る。


しかもそのハゝといふ言葉さへも、


最初からのものとは見られないのは、


國の上世の記録の中にも、母をオモといつた例が存する。


オモは一方にはウバやアンマと近く、


又一方にはオモウといふ言葉とも筋を引いて居るから、


これをもつて母を呼びかけた心持はよくわかる。


たゞわからぬのはハゝといふ言葉の怒りと、


どうしてこのやうな毎日の言葉が、最初からあるものを守つて居られないで、


次々と改めて来たかといふ點だが、


これも氣をつけて居ると今にさとることが出来るであろう。


毎日の言葉だから古びやすく粗末になりやすく、


又濫用せられる心配もあるので、


かへつて時々は新しく美しく、


又心の中の正しい感じに、ぴたりと合ふものに取りかへる必要があつたのかも知れぬと、


私はさう思つて居る。」

柳田國男
「人の名に様を附けること」『定本柳田國男集 第十九巻』筑摩書房 p.495-496

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