兵隊さんが死ぬときに、「お母さん」と言う
「(谷川)たとえば太平洋戦争中、
兵隊さんが死ぬときに、
「天皇陛下万歳」というよりも
「お母さん」と言う人のほうが
多かったみたいな話をよく聞きますね。
天皇に対する感情というのは
世代によって相当違っていて、
明治生まれの人なんかは
特別な感情を持っていますが、
あれは父親像的なイメージによるんですか。
(河合)天皇は母親的でもあるんです。
そこが、日本の天皇制を理解するとき、
ものすごくむずかしいところなんです。
天皇制を論理的に批判しようとする人は、
西洋のモデルを使うでしょう。
ああいう絶対的な権力を持ったやつがいるから、
みんなその命令に服して
ばかなことになったと。
つまり、
父と息子のモデルを
そこに使おうとするわけです。
しかし、
父−息子のモデルに近かったのは
明治天皇ぐらいで、…」
河合隼雄・谷川俊太郎
『魂にメスはいらない』講談社+α文庫 1993 p.227
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