「近代の超克」は公の戦争思想の解説版

「「近代の超克」は


、いわば日本近代史の


アポリア(難関)の凝縮であった。


復古と維新、尊王と攘夷、


鎖国と開国、国粋と文明開化、


東洋と西洋という伝統の


基本軸における対抗関係が、


総力戦の段階で、


永久戦争の理念の解釈をせまられる


思想課題を前にして、


一挙に問題として爆発したのが


「近代の超克」論議であった。


だから問題の提出はこの時点では


正しかったし、


それだけ知識人の関心も集めたのである。


その結果が芳しくなかったのは


問題の提出とは別の理由からである。


戦争の二重性格が


腑分けされなかったこと、


つまりアポリアとして


認識の対象にされなかったからであり、


そのために保田のもつ破壊力を


意味転換に利用するだけの


強い思想主体を生み出せなかったからである。


したがって、


せっかくのアポリアは雲散霧消して、


「近代の超克」は


公の戦争思想の解説版たるに


止ってしまった。


そしてアポリアの解消が、


戦後の虚脱と、


日本の植民地化への思想的地盤を


準備したのである。」

竹内好