福田和也「放哉の道、虚子の道と道」

「橋畔旗亭岩も掃く日の落葉哉 碧
こう本に置かれた字は、一向に安全ではない。
橋の「木」の部分は両側のハライが奇形的に短く、縦線は肥大しつつ若干屈曲し、横線はハライの上に両生類の眼球のように突き出ている。「喬」の部分は、地滑りのように偏から脱落し、「夭」の所は崩落の傷痕のように引き擦られ、「」は上から平べったく圧し潰されて、鋼塊のように「口」が露出する。だが、にも拘わらず、まぎれもなくそれは「橋」という「字」であって、神話的な象形の始めを想わせる文字でもあった。」
福田和也「放哉の道、虚子の道と道」『日本人の目玉』p.11