もともと文芸評論風なものは、我が国にも早くからあった

「…評論は、明治期に入ってから…実際作品と表裏し一体化して力学的に時代の文学を形成していくようになった。もともと文芸評論風なものは、わが国にも早くからあったのであって『古今和歌集』(905)の紀貫之の序文は歌論の萌芽といわれているし、『源氏物語』(11世紀初頭)にも物語論にふれた巻もあるし『無名草子』(1196-1202ごろ)も物語論である。能楽論・連歌論・俳論といったものもそのときどきの実作者の手で書かれている。本居宣長(1730-1801)の『源氏物語玉の小櫛』(1796)などはかなり新しい着眼をもった文学論をふくみ、のちの坪内逍遥の著作『小説神髄』(1885)にも明らかな影響を与えている。」
川副国基「近代評論集�解説」p.11 角川書店