人は遂に死なねばならぬ…これ程たよりない残酷な淋しいことはない

「例へば、人は遂に死なねばならぬ運命にある。これ程たよりない残酷な淋しいことはない。(中略)私の父が呼吸を引取る前にランプの光を見つめたことを覺えてをる。さうして私はランプの芯を出して、その光を出來るだけ大きくしたことを覺えてをる。ゲーテが死ぬ前に、光といふ一語を洩らしたとも聞いてをる。極樂の文學といふのは即ち其の光といふものを描いて、絶望に近い人間に尚且つ一點の慰安を與へようとする文學である」
高浜虚子「地獄の裏附け」