ぼくは…結局、何者にもなれなかった

「ぼくは意地悪どころか、結局、何者にもなれなかった―意地悪にも、お人好しにも、卑劣漢にも、正直者にも、英雄にも、虫けらにも。かくていま、ぼくは自分の片隅にひきこもって、残された人生を生きながら、およそ愚にもつかないひねくれた気休めに、わずかに刺戟を見出している、―賢い人間が本気で何者かになることなどできはしない、何かになれるのは馬鹿だけだ、などと。」
ドストエフスキー地下室の手記』(江川卓訳)新潮文庫 S44 p.8-9