「古典的」とよぶ

「表現の形式が表現される内容とまったく一致するようなあつかい方を「古典的」とよぶのである。これはギリシャの美術品で見られることだ。ギリシャの美術品ではこうした一致のために、形式と内容との最大の調和が見いだされる。形式が内容と一致しないで、その内容を「比喩的」に推測させるようなあつかい方を「ローマン的」とよぶのである。私はここで「比喩的」という言葉を使った。「象徴的」という言葉は使いたくないのだ。そのわけはこれから述べよう。ギリシャ神話にはひとくみの神々のすがたがあった。それらの神のすがたはいずれも、その形式と内容がきわめて一致していたけれども、「象徴的」な意味をおびるようにできていた。つまりギリシャ神話では、神々の姿だけははっきりときめられていたが、すべてのそのほかのこと、たとえばその神々の生活や行動は詩人がすき勝手に思うように表現してもよかったのである。ところがキリスト教ではこの反対に、神や聖者などのすがたはそれほどはっきりときめられていなかったけれども、一定の事実、一定の宗教的な事件や行為ははっきりあたえられていた。そして人間の詩情がこれらの事実に「比喩的」な意味をもたせることができたのである。」
ハイネ『ドイツ古典哲学の本質』第一巻 宗教改革とマルチン・ルター