著者は反対のデータを細心にさがし回るという努力をほとんどしていない

石田英一郎に書評を勧められた和辻がそれを断るために書いた
「しかしわれわれは、外国人の日本研究に付随するこの種の難点に対しては、寛容な態度をもって接するという習慣を持っているのです。それよりもむしろ、間違いのないデータを並べている場合でも、それの取り扱い方に難があると思うのです。著者はそういうデータから不当に一般的な結論を出しています。われわれの側からは、そういう結論を不可能にするだけの同数の反対のデータを、容易に並べることができるでしょう。この著者はそういう反対のデータを細心にさがし回るという努力をほとんどしていないように見えます。」

和辻哲郎「『菊と刀』について」p.63-64