どう考えても勝ち目がないとわかった時点で降伏していれば、


「日本への空襲が始まったのは、戦争が終わる一○ヶ月ほど前のこと。だから、どう考えても勝ち目がないとわかった時点で降伏していれば、空襲もなく民間人の死者もほんの少数ですんだはずだし、南方戦線で餓死同然に死んでいった兵隊もはるかに少なくなっていただろう。これについては、昭和天皇も関係している。一九四五年二月、元首相の近衛文麿天皇に降伏交渉を始めることを進言した
。しかし天皇は、「もう一度戦果をあげてからでないとなかなか話は難しいと思う」と述べて、それを拒否した。この時点で戦争をやめていれば、三月の東京大空襲も、四月からの沖縄戦も、八月の原爆投下も、ソ連参戦やその結果としての朝鮮半島の南北分断も、なくてすんだはずだった。」

小熊英二
『増補改訂 日本という国』
イースト・プレス 2001 p.84