神から与へられたとするやうな思想は無かつた

「この時に限らず、昔から天皇の地位なり権威なりを宗教的意義での神から与へられたとするやうな思想は無かつた。これは上代に神といはれたものの性質から見ても当然なのである。神といはれたものは生物なり無生物なりいろいろの霊物や形の無いさまざまの精霊であり、人格を具へてもゐず、宇宙を支配し全体としての人生を支配するほどの力をもつてもゐないから、君主の権威がさういふ神から与へられたといふことは、考へられなかつたのである。」

津田左右吉
「メイジ維新史の取扱ひについて」
『全集』第八巻 1960 p.436-437