読者は坊っちゃんに肩入れしながら読むが、その実皆自分が赤シャツの仲間

「「坊っちやん」はイギリスでヨーロッパにおける個人の位置を見てしまった漱石が、わが国における個人の問題を学校という世間の中で描き出そうとした作品である。(略)「坊っちやん」は学校という世間を対象化しようとした作品であり、読者は坊っちゃんに肩入れしながら読んでいるが、その実皆自分が赤シャツの仲間であることを薄々感じとっているのである。しかし世間に対する無力感のために、せめて作品の中で坊っちゃんが活躍するのを見て快哉を叫んでいるにすぎないのである。」

阿部謹也
『「世間」とは何か』講談社現代新書 1995 p.26-27