ばかげた戦争で殺されずに助かった、という、今から思えばはなはだ利己的な思いのみ

「中国との戦争ですでに国力をかなりに消耗していた日本が、さらに米英両国を相手に戦争を始めるのは破滅以外の何ものでもないということを直観的に感じていた私は、米英両国と戦争を始めた一九四一年一二月八日以後は、一日も早く戦争の終るのを待ち望むのみであった。一九四五年に入って戦況が絶望的となってきたとき、私の心も絶望的になっていた。八月一五日に戦争の終ったのを確認して真っ先に頭に浮んだのは、ばかげた戦争で殺されずに助かった、という、今から思えばはなはだ利己的な思いのみであった。」

家永三郎
『戦争責任』はしがき
岩波現代文庫岩波書店 2002