どの詩人とも似ていないところを強調したがる傾向

「…ある詩人を賞讃するとき時にその詩人の作品の中でほかのどの詩人とも似ていないところを強調したがる傾向である。詩人の作品に見られるこういう局面あるいは部分をあげて、われわれは個人的なものつまりその人の特質を見つけ出したような顔をする。詩人がその前に出た詩人たち、特にすぐ前に出た詩人たちとちがっているところを飽くまで詳しく説明し、何かそれだけ切り離して楽しく味わえるようなものを見つけようとつとめる。ところがそういう先入見をもたないで詩人に近づくと、その作品のいちばんすぐれた部分ばかりでなくいちば?個性的な部分でさえも、死んだ詩人たちつまり祖先たちがそれぞれ不朽の名声を力強く発揮している部分なのだとわかることがある。」


T.S.エリオット(矢本貞幹訳)
「伝統と個人の才能」『文芸批評論』冒頭書き出し p.8 岩波文庫 1938