革命にあらず、移動なり。

「今の時代は物質的の革命によりて、その精神を奪はれつゝあるなり。その革命は内部に於て相容れざる分子の撞突より来りしにあらず。外部の刺激に動かされて来りしものなり。革命にあらず、移動なり。人心自ら持重するところ能わず、知らず識らずこの移動の激浪に投じて、自ら殺ろさゞるもの稀なり。その本来の道義は薄弱にして、以て彼等を縛するに足らず、その新来の道義は根帯を生ずるに至らず、以て彼等を制するに堪えず。その事業その社交、その会話その言語、悉く移動の時代を証せざるものなし。斯のごとくにして国民の精神は能くその発露者なる詩人を通じて、文字の上にあらはれ出でんや。」

北村透谷
『漫罵』