古い伝統が年若な半蔵の頭に深く刻みつけられた



「隣家の伏見屋なぞにない古い伝統が年若な半蔵の頭に深く刻みつけられたのは、幼い頃から聞いたこの父の炬燵話からで。自分の忰に先祖のことでも語り聞かせるとなると、吉左衛門の眼はまた特別に輝いたものだ。」
 
島崎藤村『夜明け前』第一部(上)p.44