千早振る神無月も最早跡二日の余波となツた廿八日

「千早振る神無月も最早跡二日の余波となツた廿八日の午後三時頃に、


神田見附の内より、塗渡る蟻、散る蜘蛛の子とうようよぞよぞよ沸出でて来るのは、れもを気にし給ふ方々。


しかし熟々見て篤と点検すると、是れにも種々種類のあるもので、


まづ髭から書立てれば、口髭、頬髯、の鬚、暴に興起した破髭に、狆の口めいた比馬克髭、そのほか矮鶏髭、貉髭、ありやなしやの幻の髭と、


濃くも淡くもいろいろに生分る。」

二葉亭四迷
浮雲』冒頭書き出し