バローズは、あらゆるみじめ、悲惨、非人間を体験する

「もう、


そのさきに踏み込んでしまったら、


自分が人間ではなくなってしまうような、


かろうじて生命だけは保たれてはいても、


もはや人間とは呼べない生命体に変貌してしまう、


そういう危険なボーダーラインにまで


降りていかなければ、


彼は自分自身をすら愛することができないほどの、


徹底した認識の男なのだ。


そのために、


ありとあらゆる種類の「薬物」が、


バローズを、


非人間への境界に、


いざなっていくだろう。


バローズは、


そこで、


あらゆるみじめ、あらゆる悲惨、あらゆる非人間を体験する。


裸のランチ』は、


そういう壮絶な実験と体験のなかから生み出された、


二十世紀に書かれたもっとも美しい福音書のひとつなのである。」


中沢新一
?眼のオペラ「作家であることの証明」『幸福の断片』河出文庫 1992 p.58